disconstruction of the felicity

何故

恋情がわからなかった。あの時の心の激しい揺れは確かであるはずなのに、あらゆる煌めきは随分と昔のように思われた。うまく事が運ばれた記憶がなかったのを考えると、好きなのは人間ではなく、人間的な営みをしている自分自身なのではないかとすら考えた。

 


いや、あの感動は確かに本物だった。抱擁の甘美はさらなり、人であることを証明する体温は何よりも愛おしかった。指と指を絡めると愛欲と共に融解した。それの一体何が不満だったのであろうか。それはただ、私が私であったために、期待に応えることができなかったのだ。たったそれだけの事が恐ろしかった。

 


私が男だったらよかった?

 


私を『推し』と表現してくれる女性を思い出していた。私が恋に落ちようなどと戯言を吐いても彼女は肯定してくれるだろうか。どうせなら身罷る前に告白をしようと思う。私も彼女を魅力的だと思っていたし、振られたらその身を絶てば良いだけの話である。下らないがそれが一縷の望みかもしれなかった。