disconstruction of the felicity

記録『思慕のひとを眼前にして』

 


 その方の顔を近くで見たのは、これが初めてだった。生身の肌が皮脂でぎらついて、艶かしく発光するばかりでなく、そこからわかる思春期らしさといふものが太陽の元で粛然と居座っていた。出来の良い顔立ちが笑みで崩れても悠々たる魅力が光っていた。ふと油断していると、それみたことか、若者の気を感じさせるパヒュームが私の鼻孔に悪戯を仕掛ける。微笑んだ目元は不自然ではない程に美しい弧を描いており、その崇高な幾何学的美学は誰をも十分に魅了し得るであろう。この短く切り揃えられ、無為自然なままの前髪、少し伸ばした艶のある後ろ髪も、烏の濡れ羽色だから美しいのだろうか。では、造形の美しさを活かすには、西洋人らしい金や茶が似合うだろうか、などと考えているうちに、また一睡もできず、黎明を超える羽目になるのである。